PART I で紹介したように、アンプ製作を再開するきっかけとなったのはGE製のVT-4C(211)の衝動買いでした。ただ、これでアンプを作るのは10年計画と思っていました。なぜなら、@費用がむちゃくちゃかかる。A1000vを扱う経験と知識が必要 だからです。 ところが、2つの衝撃的な出会いがこの計画を大幅変更させてしまいました。 最初の出会いは勉強のつもりで集めていた211,845の製作記事で見つけた佐藤進さんの845を450vで駆動する記事(MJ 93/6)です。そしてもうひとつはもっと衝撃的で、「手作りアンプ」のQRP分科会で村嶋さんが発表された、なんと845を60vで駆動する実験です。 直感的に私は思いました。845で低電圧化ができるなら211でもできるのでは?だめもとでやってみる価値はある!と。音質的にはどうだかわかりませんが、とにかく211で音が出せる!ということに非常に大きな魅力を感じ、初めての自力設計ですが、早速やってみることにしました。
1. 設計
初めての設計と言うことで一番シンプルな回路を選びました。
(1) 出力段
ロードラインを引きます。211のEp-Ip特性は雑誌にのっていたものを抜き出し、エクセルに入力しました。まず、アイドリング時のプレート電圧を265V近辺と決めました。これは使用する電源をおなじみ東栄の220v絶縁トランスと決めていたためで、自己バイアス分や、電圧降下分を差し引いた値です。ここを基準に上下および勾配方向に直線を移動し、一番出力の取れそうなところを選びました。その結果、Ip=17.5mA、負荷抵抗3kΩで最大出力は約0.48wです。グリッドバイアスは−11Vを中心に±10V 振ることになります。
(2) 初段
初段の真空管は手持ちにあるものということで12AX7にしました。ロードラインはデータシートの抵抗容量結合の使用例を参考にプレート電圧250Vプレート負荷抵抗100KΩで設計しました。ゲインを計算すると52倍となり、ありすぎですが、大は小を兼ねるでひとまずOKとしました。図中赤線は交流負荷です。
(3) 電源
B電源については以前に製作した6BM8超3アンプが参考になるので問題ないのですが、ヒータ電源はちょっと不安です。そこで実験をしながら分圧の抵抗値を決めることにしました。10.5vのトランスは整流後、無負荷状態で16vほどあります。この後に手持ちの6800μのコンデンサをいれ、抵抗で分圧します。ここで、いきなりヒータにつなぐのも怖いので、代用品としてオーブントースターアンプで残ったニクロムヒータを使ってみました。実験の結果、大体0.8Ωでいけそうです。しかし10v3.2A、つまり32wの発熱って相当なものだとニクロム線に手をかざしながら実感しました。
以上の設計検討の結果できた回路が下図です。
2.製作
まずは実験機ということで、モノラルのブレッドボード仕様にしました。
(1) 球
いきなりGE製の211を使ってオシャカにしてしまうのは悲しいので中古の211を使おうと思い、秋葉原を探し回りました。しかし中古品を持っている店はどこにもなく、太平洋の社長からは「中古なんか使っちゃいかん!最低でも中国製の新品を使いなさい」と説教されました。幸運にも最後に、半分あきらめ気分で寄ったサンオーディオで、中古はないけどと言って出して来てくれたのは、「中国製・新品・ペア・箱なし・2本で6000円」という球でした。これでも箱あり品の半額の値段なので、中古1本分の予算しか考えていなかったのですが、迷わず買ってしまいました。CRというメーカです。
(2) トランス
もうひとつ探すのに苦労したのは211のヒータ用トランスです。まともに買うと1個2500円ぐらいするので、ジャンク品を探していました。あるとき、「手作り・・」の掲示板で「鈴商」に1000円で売っているという情報を見つけ、直ちに買いに行きました。10.5V 6.5Aです。B電源用には当初、東栄のZT03Sを使うつもりでしたが、これももっと安いのがジャンクで無いかと探しているうちに、ジャンクではないのですが春日無線に7Z40WCDと言う、1630円でしかも40VAのものがあったのでこれにしました。このトランスにはヒータ用6.3vの端子もついているのですが、なんとなく容量が不安だったので別に東栄J633も用意しました。出力トランスはこれまたおなじみのT850の2段重ねです。(まだこれより高い出力トランス買った事ないよ)1次(3kΩ)、2次(8Ω)ともにパラ接続としています。
(3) シャーシ
ブレッドボードとして使ったのはスピーカと机の製作で余った木材です。250x600の大きなボードなので余裕を持って配線できます。
(4) その他
予算がないので、製流用ブリッジダイオードやコンデンサ等、できるだけ手持ちであるものを使っています。カップリングコンデンサは音質に影響すると言われていますが、日米商会で売っていた、0.68μF500V で150円のフイルムコンを使っています。初段のMTソケットは上から配線出来るようにジャンク基盤に取り付け、各ピンから銅線で放射状に端子を出しています。
3.音出し
出来上がりはなんとも物々しいものになってしまいました。ブレッドボードと言うよりは「舟盛り」アンプです。まあ実験機なのでこれで良しとして、配線チェックを何度もし、いよいよ火入れ式です。スイッチを入れるとすぐにヒータが明るく輝きます。ブーンと言うハム音とガサゴソ言うノイズに混じってMiles DavisのMy Funny Valentineが聞こえてきました。ハムバランサをまわすとハムはほとんど聞こえなくなりました。また、ガサゴソ音は211のソケットの接触具合のようです。ボリュームを上げると結構な音量で鳴ります。でも妙にキンキンした音です。理由はどうやら裸のスピーカにつなげていたためのようで、早速バックロードホーンにつなぎかえて見ました。驚きました。しっかり鳴るじゃないですか。これだけ出てくれれば私は大満足です。記念撮影の後、直ちにステレオ化に取り組みました。
1.設計見直し
実験機の各部の電圧を測ると、設計値よりも高くなっていることがわかりました。特に265Vで考えていた出力段のプレート電圧は316v近くあります。おそらく20〜30mAしか使っていないのでトランスにとって負荷が軽く、ここまで出ているのだと思います。ここで265Vまで落とそうかと考えたのですが、せっかく出ているのだからこの電圧でのロードラインを引きなおしてみました。するとどうでしょう、偶然ですが図のようにかなりバランスの取れたところに位置しています。これにはカソード抵抗が適当なものがなくて大き目のもので代用したことも幸いしているようです。これによって最大出力も0.77wまで増加します。せっかくうまく行っているので、このままとし、逆にステレオにして負荷が増え、電圧が落ちることを考えて同じ電源トランスをもうひとつ買い、パラ接続で使用することにしました。これは、今後シリーズで接続して電圧アップにも使えると考えています。初段の方は、ほぼ設計値どおりのようで変更はありません。
2.製作 今回は少し見栄えをよくすることを考えました。といってもあまり金はかけません。まず別電源にしました。これは見栄えを良くするというより、ヒータトランスがやたらと大きいのとトランスだけで5つ収めなければならないからです。シャーシにはもらい物のテスト冶具のシャーシを再利用しました。フロントパネルはランプやスイッチの穴だらけでかっこ悪いのですが、しっかりしたつくりなのでOKです。いずれ何かで目隠しするつもりです。アンプ部のシャーシは、まず、トッププレートにスピーカの余りものの板を使いました。正面と背面のパネルは半導体の放熱板だった厚さ2mmのアルミのアングルです。おなじみのピカールで少し磨きました。側板は机製作で使った天板の余りです。これは、本当はドリル加工の時のあて板に使っていたので、よく見ると穴だらけです。残念ながら、塗装をする元気まではありませんでした。シャーシ内部の木部には、100円ショップで見つけた銅テープをおまじないのつもりで張ってあります。 さて、今回のチャームポイントはPART IV でお見せした、流しのごみ受け皿(100円)を使った放熱穴つき真空管ソケットです。ステンレスでしっかりした作りです。木のプレートとよくマッチします。トッププレートに穴(φ100)を開けるのがちょっと大変ですが・・・。そしてもうおなじみ?のライトアップです。またまた青色ダイオードで行きます。100円ショップでちょうどいいサイズのアクリルの鉛筆たてを見つけたので、底板を切って使います。耐熱温度70℃で不安なのですが、意外に211の下のほうは熱くないようです。いずれはガラス瓶を切って替りにしようと考えています。出力トランスのカバーはこれまた100円ショップで見つけたステンレスのコップを切って使っています。全体の姿は写真のとおりです。
3.音出し
音出しはトラブルもなく、以外にあっさりと鳴ってくれました。6畳の部屋で聴くには十分な音量です。私にとっては音質も気になりませんが、聴く人が聴けば箸にも棒にもかからないものかもしれません。しかし今のところ中学時代からの憧れの球を使った、設計製作すべて自前のアンプで音楽が聴けるということだけで大満足です。今後、村嶋さんお勧めのゼロバイアスや、A2級、さらにもう少し電圧アップなどを検討していきたいと思っています。このサイトを見た方でなにか改善点、アドバイス等があれば教えてください。よろしくお願いします。
真空管アンプは高圧電流を扱います。感電、火災等の危険が考えられます。。 読者がここに記載された情報を実際に運用した際に発生した事故、傷害、損害等 をに関して、 著者は一切の責任を負いません。 読者の自己責任で利用してください。 適切な対策を講じて、事故のないよう十分配慮して下さい
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