初めて6080にお目にかかったのは中学のときでした。私を真空管アンプの世界に導いてくれた同級生のA君と定例の秋葉原めぐりで、今はもうない、ジャンク屋に行ったときのことです。掘り出し物がないかさがしているときに箱いっぱいにKT−88ぐらいでかいGT管が無造作に置かれているのを見つけました。「おお!すげっ」思ったそのとき、A君に「それはアンプには使えないよ」と言われました。何だ、だから安い値段でこんなに山積みなんだと思ってがっかりしたのを覚えています。その後OTLアンプで6080が何個も使われている記事を見て、アンプ使おうと思えば使えるけど何か特殊な球なんだという感じを受け、その後は忘れていました。しかし、昨年来アンプ製作を再開して、秋葉原で7〜800円で売られている6080に会うたびにとても気になり、そのうちに何か放っては置けない球と思うようになり、ある日アンディックス・オーディオで通常の半額400円で売られているのを見てとうとう2本買ってしまいました。もうこの頃には6080が扱いにくい球で「猫またぎ」と呼ばれていることは知っていましたので、買ったものの、眺めるだけかと思っていました。ところがあるときネット上でA級PPの製作例を見つけました。もともとRCAチューブマニュアルにはHiFiアンプの使用例が出ているそうで、製作者は初段・ドライバ段をアレンジしていました。ドライブに苦労するようだけど出力を無理しなければひょっとして作れるかも・・・と思いだしたら止まらなくなり、どうせ作るなら一味変えて全段差動で行こうと決心しました。
400円で買ったPhilips製6080(一番右)とその後、放ってはおけず買ってしまった中古の6080、6AS7たち
ネット上で見つけたA級PPの回路を基本に全段を差動化していこうと考えました。ただ、元の回路は多分、電源電圧450Vぐらいで設計されているようですが、トランスやその他の部品の制約で350V前後の電源でできる程度を考えました。
<出力段> 6080のデータシートによると動作例としてプレート抵抗2.5KΩ、プレート電圧250V、プレート電流50mAあたりが紹介されています。このときグリッド電圧は−125Vです。電源電圧350Vではこれは無理で、もう少し低めにしました。結局落ち着いた動作点はプレート電圧220V、プレート電流50mAの点です。特性図にはグリッド電圧が-150Vまでしか出ていないので出力がいくらになるのか見当がつきませんが、4〜5W位でしょうか? 定電流回路は合計で100mAで、カソードは100Vになるのでトランジスタによる回路を設計しました。ちょうどジャンク電源から取った2SC5200と言うけっこう大きなトランジスタが7個あったのでデータシートで見ると高耐圧230V、コレクタ損失150Wとあるので十分使えると直感しました。計算方法が最初、聖典を見てもさっぱりわからなかったのですが、ぺるけ師匠の掲示板でいろいろと教えていただきました (データはSvetlana 6AS7 を利用させていただきました) |
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<ドライバ段> |
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<初段> |
以上の設計でできた回路がこれです。まだフィードバックは入っていません。
財政は相変わらず厳しいので、いつもどおり、できるだけ「ありあわせ」の材料を使って製作していきました。
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シャーシ> 左右側板に定電流回路用のトランジスタの放熱用をかねて、ジャンクのヒートシンクを使い、トップおよびボトムプレートはこれまたジャンク電源から取った2mm厚のアルミプレートを使いました。正面パネルはジャンクシャーシのフロントパネル(3mm厚)をなるべく穴のあいていないところを切り出し(地獄の金鋸作業・・・)、表面は文字が刻印してあるので裏返して使っています。お互いを15mmx15mmx1.5tのL型アングルで結合しています。 今回も100円ショップ関係を使っています。6080のソケットのベースプレートとして211SEで使ったSUS製「流しのごみ受け」の1回り小さいサイズのものをシャーシから上方向に10mm浮かせて使用しています。これは6080がとんでもなく熱を出すと聞いていたのでシャーシ本体への伝熱を抑制するためと、6080自身の放熱を考慮したためです。シャーシ本体にはφ80の穴加工(地獄のヤスリがけ・・・)が必要でしたが、デザイン的にも面白いものになりました。トランスカバーにはステンレス製のキャニスター(と書いてあった)を使っています。インド製、ふたつきで、100円とは思えない出来です。 真空管とトランスの配置は6080を強調するためにあえて前に配置し、トランスを真中後部にもってきました。その結果、入力端子、ボリュームが前にあり、出力端子は後ろにあるので信号は前→後→前→後と前後方向に1往復半することになってしまいました。(やっぱ、邪道です) |
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<大物部品> 今回の製作は増幅部だけですので、大物部品は出力トランスだけです。今回使った東栄のOPT−10PはPPのトランスで一番安いものだと思います。しかし出力は10Wまでいけますし、許容DC電流も5KΩのものは片側90mAなので電気的には十分だと思いました。「聖典」にもあるように1次巻き線抵抗のばらつきが小さいのでバイアスの調整はここを使いました。ごらんの通り、トランスを縦にして木製の台座に固定し、キャニスターのふたと共にシャーシに固定しています。 |
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<配線> これまで製作したアンプに比べて配線は複雑になりそうなので、特にごちゃごちゃしそうな初段とドライバ段を左右まとめた基板を作りました。基板といってもプリント基板ではなく、ベーク板とハトメラグを使った、古風?なタイプです。 まず基板と真空管ソケットの位置関係を考えました。真空管は見映えよくするためにソケットをトッププレートから沈めた形にします。基板に直接ソケットをつけるのは強度上不安なので(トッププレート)−(ソケット用プレート)−(基板)の3段重ねにしました。次に基板サイズの紙の上で部品配置を考えました。電源は左右独立になっているので、アースを両端に配置し、中央に各チャンネルのB,C電源が走るようにしました。ヒータの配線は基板上には設けず、ソケット用プレート上で配線しています。 基板から真空管ソケットへの配線は基板にソケットとほぼ同じ大きさの穴をあけ、そこから各端子に接続しています。基板にしたことで基板単体で配線チェックが出来、さらに全体の配線もすっきりしました。ところが、ここでサブタイトルにあるような大失敗をしてしまっていたのですが、まったく気が付きませんでした。 |
<嗚呼!前段作動(差動)せず・・>
いよいよ音出しです。電源スイッチを入れると各真空管のヒータが赤く灯りました。とりわけ6080のヒータは縦に一筋赤いラインが走り、魅力的です。ボリュームを上げていくと左右どちらのスピーカからも音が出てきました。大成功!と喜んでいたのですが、では各部の電圧チェックをと、初段のカソード電位を測ってみるとゼロ入力時に0.3Vほどしかありません。ロードラインでは確か4V前後のはずなのに・・・プレート電圧もそれにしたがって58Vぐらいになっています。差動回路が働いていないようです。まず定電流ダイオードを疑いました。しかし測ってみると、CRDを選別したときと同じ値を示し、壊れていないようです。配線も基板上で完結し、間違えようがありません。散々考えたあげく、わからないのでとうとうぺるけ師匠にお尋ねしました。師匠からはCRDの問題、発振の可能性などアドバイスをもらいましたが原因ではありませんでした。あーでもない、こーでもないとテスターで基板の各点をあたっていると、アースにつながってゼロボルトになるはずのところがゼロにならず、数ボルトを表示します。フィードバック用の抵抗として前もって用意したものです。周りの点の導通を測ってみるとなんと基板の裏側で12AU7のカソードとつながっているではありませんか・・あれだけ基板単体で配線チェックをしたのに・・思い込みの恐ろしさです。と言うことでぺるけ師匠には前回の211SEに続いてまたアホな質問となってしました。重ね重ねすみません。
<2重の勘違い P-P?RMS?±?>
次なるミスは交流の定義の勘違いでした。メインアンプは入力1Vぐらいで出力が最大になるのが一般的だと聞いていました。ここで、まずこの1Vは1Vp-pだと勘違いしていました。そこで1Vp-p、1kHZの信号をいれて出力を見ると8Vp-pぐらいしかありませんでした。「1Wしか出ない!」と思い、ロードラインを見ると±1Vに対して設計しています。しまった!ゲインが半分だ!これではフィードバックもかけられないと思い込み、対策を考えました。@入力にトランス(山水の小さいやつ)を挿入 Aゲインが大きくなりすぎるが12AT7に変更 という2案が費用最小、変更箇所最小と考え、またしてもぺるけ師匠にお尋ねしました。その結果、Aで行くことにしました。もうひとつのオプションとして5965と言う真空管も教えていただきました。幸い、12AT7も5965もバーゲンで中古品を安く手に入れることが出来、まずは12AT7よりもゲインが小さそうな5965で行きました。その結果始めのゲイン8に対して約20となりました。ところが実際は入力1VはRMS値なのでP-Pにすれば約2.8Vですから±1Vの設計でも多少余裕があり良かったことになります。フィードバックをかけることを考えれば、ゲインは20倍あったほうが良いと思うのですが、どうでしょうか?
<発熱対策−その1>
長時間使用していると、電源部の側板が熱くなっていることに気が付きました。リップルフィルタ用の抵抗の発熱が原因で、左右合計で10W弱程です。手で触れないほどではないのですが、電解コンデンサ群と隣り合わせになっているため、抵抗をもっとコンデンサから遠ざけることにしました。写真のように、ベーク板をはさんでコンデンサと反対側に抵抗を並べました。
<発熱対策−その2>
定電流回路用トランジスタの放熱は十分余裕を考えたつもりでした。しかし、トランジスタの表面温度を熱電対で測定すると、外気温25℃で80℃まで上昇しました。Tjは150℃なのでまだ大丈夫だと思うのですが、シャーシ内は雰囲気温度も高そうなので、念のためファンで冷却することにしました。60角の12Vファンを左右1個づつ使用しています。電源はヒータ用を倍電圧整流して作っています。ファンの音が気になるのでスイッチで高速・低速を切り替えられるようにしています。これにより、表面温度は外気温15℃のときに50℃でバランスしました。
測定器が相変わらずいいかげんなものなので結果はあてになりませんが、周波数特性とダンピングファクターを測定しました。
周波数特性はこれまで作ったアンプの中で一番優秀?でした。フィードバック無しでこの結果なのでフィードバックはまだ入れていません。ダンピングファクターはON・OFF法で1KHz・1Vrmsの出力で測定の結果、約5でした。
三段構成なので1・2段間直結を考えてみたいです。
邪道なのにヒカリモノがないなんて邪道だ! でも6080は十分光ってるでしょ。
真空管アンプは高圧電流を扱います。感電、火災等の危険が考えられます。。 読者がここに記載された情報を実際に運用した際に発生した事故、傷害、損害等 をに関して、 著者は一切の責任を負いません。 読者の自己責任で利用してください。 適切な対策を講じて、事故のないよう十分配慮して下さい
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